失敗したWebプロダクト開発を復活に導いた Claris FileMaker の魅力
こちらの記事は、2022年11月に弊社代表の岩佐が登壇した Claris Engage Japan 2022 の講演内容を、生成AIによる文字起こしをもとに、ブログ向けに再構成したものです。
1. オープニング
それではよろしくお願い申し上げます。
株式会社ライジングサンシステムコンサルティングの岩佐です。
今回は「失敗したWebプロダクト開発を復活に導いた Claris FileMaker の魅力」ということでお話しします。
約2年間、金額にして2億5,000万円を投資したにもかかわらず完成に至らなかったWebプロダクト開発プロジェクトを、Claris FileMaker を使って再度トライした結果、
- 開発期間:たった4ヶ月
- 投入エンジニア:2名
- 開発コスト:20分の1以下
で完成まで導いた事例を題材に、ITエンジニアがローコード、そして FileMaker を学ぶメリットについてお話ししていきます。
このセッションは、2022年6月に開催された(※後述)カンファレンス2022で私が担当したセッションをもとに、今回の(※後述)2022拡大版としてお送りするものです。前回は時間の都合でお話しできなかった内容も盛り込んでいます。
2. 自己紹介
改めまして、セッション担当の岩佐です。
- 株式会社ライジングサンシステムコンサルティング 代表(※社員は雇用せず、いわゆる一人親方スタイル)
- 実案件では信頼できるパートナー企業とチームを組んで対応
- SNS(X / Twitter)もやっていますので、よろしければフォローをお願いします
また、昨年「CodeZine(コードジン)」で FileMaker の技術記事を連載しました。FileMaker の最近の進化は著しく、普段使っている方でも実用的にキャッチアップするのが難しい状況だと思います。未読の方はぜひご覧ください。
さらに、普段FileMakerを使っていないITプロフェッショナル向けに「ローコードはITプロフェッショナルを幸せにするのか/FileMakerエンジニアに学ぶローコード開発の本質」という記事も執筆し、人気ランキング1位になりました。その内容をもとに、開発者向けイベント(通称デブサミ)でもセッションを担当しました。
3. 事業内容(3本柱)
弊社は大きく3つの事業を営んでいます。
3.1 ソフトウェア開発の内製化支援
FileMakerで業務システムの内製化支援を行っています。
- Zoom等で画面共有しながらのペアプログラミング支援(ライトプラン)
- 1年超の基幹システム構築+社内開発者育成まで(大規模)
3.2 スキル移行支援
.NET / Java などで開発しているエンジニアが、FileMakerプラットフォームでスムーズに開発できるようになるための技術トレーニングを提供しています。
3.3 プロトタイプシステム開発
将来的にWebサービスやパッケージとして展開する予定のソフトウェアのプロトタイプを、FileMakerの高い生産性を活かして低予算・短期間で開発し、新規事業・新規サービス立ち上げを支援します。
4. 開発しようとしていたプロダクト(医療機関向け:管理会計)
ここから本題です。
開発対象は、中堅・中小規模の医療機関(病院)に特化した管理会計システムです。
5. FileMaker版ソリューションのデモ概要
5.1 ログイン直後のダッシュボード
病院の経営企画・会計担当の方がログインすると、月別の
- 医療収益
- 医療費用
- 粗利益
といった業績情報が表示されます。
さらに、
- 予算比
- 前年比
- 前年同月比
のような視点から比率を表示し、上向き/下向きをインジケータで示します。
下部には、過去1年分の売上・費用・利益を棒+折れ線のコンビネーションチャートで表示します。
※このようなチャートはFileMaker標準グラフだけでは難しいため、Chart.js を使って実装しています。
5.2 レセプト分析(データグリッド)
1ヶ月分のレセプトデータをデータグリッドで閲覧できる機能です。
- 項目名クリックでソート(昇順/降順)
- 部分一致フィルタ
- 数値フィールドで比較演算子を用いたフィルタ
- フィルタ実行に合わせてフッター合計値も即時計算
- 列のドラッグ&ドロップ、列の非表示
- 横スクロール
- Excelエクスポート
といった高度な操作性を、商用のJavaScript UIライブラリで実装しました。
FileMaker純正で作り込むことも不可能ではないと思いますが、工数は大きくなります。今回はUIライブラリの標準機能を活用し、コーディング量を最小化して短時間で実装しました。
5.3 財務データ登録(スプレッドシートUI)
Windows環境で、医療機関に特化した損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)の月次入力画面を表示します。
見た目はExcelやGoogleスプレッドシートのようなUIで、
- セル移動
- 複数セル選択
- コピー/ペースト
- まとめて削除
- 外部からのコピペ
- 計算式セルのロック
などが可能です。
保存ボタンを押すと、FileMakerからWebビューア内のJavaScript関数を呼び出し、スプレッドシートのデータをJSONで受け取ります。その後、受け取ったJSONを変換して正規化されたFileMakerテーブルに格納します。
FileMakerはバージョン16以降、JSON関連の組み込み関数が標準実装されているため、JSON変換も実装しやすくなりました。
6. JavaScript連携を“ローコード化”する工夫(Webix)
FileMakerはバージョン19以降、JavaScript連携が強化され、19.3ではWindows環境のWebビューアのレンダリングエンジンも刷新されました。
ただし、JavaScriptを書く時間が増えすぎると、ローコードとしてのメリットが薄れてしまいます。
そこで弊社では2つ工夫しています。
- JavaScript側もローコードなライブラリを使う(例:Webix)
- Webixの高度なウィジェットを組み込んだ HTML/CSS/JavaScript のコードを自動生成するツールをFileMakerで自作し、実装の敷居を下げる
Webix × FileMaker の連携方法については、別セッションで詳しく解説しています。
7. “失敗した”旧Webプロダクト開発の概要
旧プロジェクトは、
-
期間:2年間
-
投資:総額 約2.5億円
- イニシャル:約5,000万円(ハードウェア購入、開発環境、ソフトウェアライセンス等)
- ランニング:年 約1億円(主に人件費)
-
体制:ピーク時 17名(内製)
-
プラットフォーム:(※後述)+ Microsoft SQL Server
-
開発手法:ウォーターフォール
結果として、2年間で2.5億を使ったにもかかわらずソフトウェアは完成せず、ビジネスも立ち上がらない、という悲劇的な結末でした。
新規サービスで参考プロダクトがなく、既存業務もない中で、ウォーターフォールで要件を固めざるを得ず、ふわっとした要件→設計→実装→テストという流れの中で、よくある“理想と現実のズレ”が発生し、プロジェクト雰囲気の悪化、離職、コスト膨張につながった、というお話でした。
8. FileMakerでの再始動
事業アイディア自体は潜在ニーズがあり、発起人は別法人を登記して医療機関向け経営コンサル事業を開始しました。
重要業務のひとつが、医療機関に特化した経営分析レポートの作成です。
当時は Power Query / Power BI / Tableau などで加工していましたが、本来は旧Webプロダクトで自動生成する予定だったものです。
旧プロジェクトが失敗したため手作業になり、当時は1医療機関あたりレポート作成に1週間かかっていました。
まずは自分用のデータ加工ツールとしてFileMakerを学び始め、弊社のブログ・YouTubeを見つけ、「これだけできるならプロダクト自体も作れるのでは」と学習を進めたものの、非エンジニアがプロダクトレベルを作るのは難しく、弊社へ相談いただき、プロトタイプ開発プロジェクトがスタートしました。
9. 開発の進め方(要件定義の代わりに“要件分析”)
弊社は、一般的な意味での要件定義書を作るより、要件分析を重視します。
要件分析の手法として、アイコニックスプロセス(ICONIX Process)を参考にしています。
- UIモックアップ作成
- ユースケースモデル
- ドメインモデル(弊社では論理ER図)
これらで要求の7〜8割が把握できた段階で、FileMakerでプロトタイプ実装に入ります。
9.1 図の共有:Lucidchart
ER図などのダイアグラムは Lucidchart を用いてクラウド共有し、常に最新版をチームで参照・同時編集できるようにしています。
9.2 タスク管理:Jira(看板)
要件をチケットに分解し、看板で進捗共有します。
弊社のボード運用は以下のレーン構成です。
- アイスボックス(アイデア置き場)
- 作業前(ToDo)
- 進行中(Doing)
- レビュー待ち
- 告知
- 完了(Done)
- ゴミ箱(ボツになったチケット)
レビュー待ち→完了の間に「告知」レーンを置き、追加したカスタム関数やコンテクストフリーなスクリプトをチームに共有し、重複実装を防ぎます。
また、エピックでチケットを階層管理し、チケットの粒度は「当日中に終わる」〜「長くても半日」程度を目安にします。
10. チーム開発と開発ルール
新メンバー参画にあたり、開発ルールを再整備しました。
開発ルールの共有は、画面共有しながらのペアプログラミングで行い、必要に応じて Confluence にドキュメント化しました。
10.1 開発ルールが重要な理由(3つ)
- 属人性の排除:作った人しか分からない状態を避ける
- 品質管理:実績あるロジックを部品化(カスタム関数/スクリプト等)し再利用しやすくする
- 効率化:UIデザインや基本挙動(操作感)をルール化し、都度迷わず実装できる
10.2 例:操作性の統一(検索→データセット→閲覧→編集)
兄弟プロダクト(整形外科インプラント手術支援)を例に、
- 検索
- データセット表示
- 閲覧(別ウィンドウ)
- 編集(カード形式・モーダル制御/保存・キャンセル固定)
という基本フローを統一しています。
10.3 例:UIデザインのルール
- ラベル/入力欄などは関連情報ごとにグルーピング
- グループボックスとしてスライドパネル(1枚運用)を利用
- そのグループ内のアクションはタイトルバー左上のポップオーバーに格納
エンドユーザーが見ない「UI部品集」レイアウトを作り、開発者はそこからコピペして実装することでデザインの揺れを抑えます。
11. お客様との進め方(週次サイクル)
- 月曜午前:お客様とZoomで今週の作業予定共有
- 月曜午後〜木曜:プロトタイプ実装
- 金曜午前:Zoomでデモ → 検証サーバへデプロイ → お客様が操作してフィードバック
仕様変更・追加は当然発生しますし、基本的に歓迎します。
この開発スタイルで、着手から4ヶ月後には「実現したいことはほぼ実現」できました。
なお、お客様と初めてリアルで会ったのは、プロダクト完成の3ヶ月後(=プロジェクト中は全てオンライン)でした。
12. 成果(ビジネス面)
完成したFileMaker版プロダクトを、医療機関だけでなく出資者候補(VCや個人投資家)にデモし、高評価を得ました。
その結果、十分な出資が集まり、2023年1月には新法人を登記して、このFileMaker版プロダクトを拡販していく事業が立ち上がっています。
13. まとめ(成功要因3つ)
振り返ると、成功要因は次の3つだと思います。
- プロトタイピングモデル+(請負ではなく)準委任で進められたこと
- FileMaker+ Webix(双方ローコード)を採用できたこと
- FileMaker と JavaScript の両方を扱えるエンジニアでチームを組めたこと
コーディング量が少ないほど、
- 早く動くものができる
- バグ内在率が下がる
- 仕様変更のインパクトを吸収できる
という利点があります。
また、アジャイルではチームメンバーが多能工(いわゆるフルスタック的)であることが重要です。
ただしフルスタック人材育成は時間もコストもかかります。
そこでローコード、そして FileMaker です。
FileMaker ならフロントエンド/バックエンドを別言語で学ぶ必要がなく、習得コストを抑えつつ多能工化を進められます。結果的に、アジャイルに対応できる人材を短期間で育成できます。
最後に、FileMaker はここ数バージョンで著しく進化しました。特にバージョン16以降の進化は凄まじく、JavaScript連携やWeb API連携の容易さに象徴されています。
本セッションが、FileMaker の限界の高さ・可能性を感じ取っていただくきっかけになれば幸いです。
以上でセッションを終了します。

