内製化

システム開発の内製化に失敗する企業に共通する3つの要因

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こんにちは。
ライジングサン・システムコンサルティングの岩佐です。

このブログ記事では、せっかくソフトウェアの内製化に取り組み始めたにもかかわらず、最終的にうまく行かなかった企業にみられる3つの原因を考察します。

弊社では2015年から、ソフトウェア開発プロジェクトで一般的に見られる開発のフルアウトソーシングでは無く、内製化とアウトソーシングのいいとこ取りを目的とした「ハイブリッド・ソーシング」というサービスを開始しました。

また、2016年にはFileMakerカンファレンスでこの成功事例をお話させていただき、その様子がYouTubeにもアップロードされていることから大きな反応をいただき、「ぜひ内製化に取り組みたい」という企業とたくさんのご縁をいただく結果となりました。

このサポートさせていただいた企業の中には、先のYouTubeにある長野県千曲市の製造業様のように、極めて優れた成果を出され、さらに現在においても次々に社内の業務を効率化し続けている企業もいらっしゃれば、残念ながら志半ばで内製化を断念された企業もいらっしゃいます。

それでは、うまく行った企業といかなかった企業を分けた要因は何だったのでしょうか?

今回はその要因を次の3つに分解してご説明したいと思います。

  1. 内製化の目的を「アウトソーシングコスト削減策」としている
  2. いつまでたっても作ろうとしない
  3. 内製化すべき業務領域を絞り込めていない

1.内製化の目的を「アウトソーシングコスト削減策」としている

ソフトウェアの内製化は、一見アウトソーシングコストの削減に繋がりそうですが、それは「内製化がうまく機能した場合」に限ります。当然ですが、内製化が機能し始めるまで、そして内製によって開発したソフトウェアが、ビジネスに貢献できて、はじめてアウトソーシングコストの削減が達成なのです。

逆を言うとそれまでは「人材育成投資」とういう形で、別のコストが必要です。

内製化を単なる「アウトソーシングコスト削減策」と位置づけている企業は、残念ながらこの人材育成の為の投資すら「削減」する傾向にあります。

これでは社内にまともな開発者を育てることができません。ですので、結果的に内製化はうまく行きませんし、そもそもの目的であった「アウトソーシングコストの削減」も達成することはできません。

あたり前ですが、人を育てるのは時間もお金も必要です。この投資をしないまま、成果だけを得ようとしても、そううまくいくものではありません。

ソフトウェア内製化に取り組んだ企業の得ることができる最も大きな成果は、アウトソーシングコストの削減ではなく、ITを利活用した洗練した経営を実現するための「人財」です。

人財育成を最終目的とするのでは無く、「アウトソーシング費用の削減」を最終目的としたいのであれば、内製化とは違う「他の何か」で実現すべきです。

2.いつまでたっても作ろうとしない

このパターンにはまってしまう企業は、概ね2つのタイプに別れます。

ひとつは「常に完璧を要求される」「絶対にミスが許されない」といった社風をお持ちに企業。

もうひとつが「なにか新しいことを始めるにも関わらず、今ある何かをやめられない企業」。つまり、ただでさえ忙しくて時間が足りていないにも関わらず、その上さらに内製化に取り組まれようとしている企業です。

2-1.完璧を求められる社風での内製化はうまくいかない

この完璧を求められる、そして失敗が許されない(恥ずかしい?)という社風の企業は、なせか情報だけはたくさん知っているが、その情報を活かしたアクションはいつまでたっても取る気配がないという特徴があります。

例えば「◯◯といった企業が□□というツールを使って内製化に成功した」「◯◯という開発ツールは□□という特徴があってとても生産性が高い」など、われわれも知らない情報をたくさんご存知です。

しかし、自社内の取り組みはいっこうに進んでおらず、「評論家」にとどまっています。

水泳の技術が書かれた本を100回読んでも泳げるようにならないように、ソフトウェアも実際に手を動かさなければ作れるようにはなりません。

もちろん、最初の一歩を踏み出すのは、人間誰しも恐怖を覚えるものです。特にソフトウェア開発の最初の一歩はうまくいかないことばかり。自分の無力感をこれでもかと感じることもあると思います。

しかし、そこを乗り越えなければ決して作れるようにはなりません。

内製化に取り組む企業は、そこをしっかりと理解し、開発者として育成するスタッフさんには決して完璧を求めず、ミスを許容するだけの懐の深さが必要です。もし、それができないのであれば、やはり内製化には取り組むべきではありません。

2-2.学習時間の確保ができない企業はいつか破綻する

また学習の為の時間を確保できない企業の場合は、そもそも時間が無いのでいつまでたってもソフトウェア開発の学習をスタートすることができませんし、スタートしたとしても、僅かなスキマ時間で少しづつ…といったペースなので、いつまでたっても体系的な知識が身につきません。

結果として開発者がいつまでたっても育たず、内製化に断念されるケースがほとんどです。

なにか新しいことを始めるにあたっては、今ある何かをやめることが極めて重要です。

それではソフトウェア開発の学習のためにどれぐらいの時間を確保すれば良いのでしょうか?

これは私の感覚値、かつFileMakerプラットフォームを前提としますが、少なくとも最初の1週間(5日間)は通常業務を完全に離れて、ソフトウェア開発のイロハを、プロのトレーナーから受けるべきです。

その後、約3ヶ月を目安に1日3時間はソフトウェア開発の学習を目的としたプロトタイプシステム開発のプロジェクトを立ち上げます。

この時の理想は、豊富な開発経験を持つメンター技術者と「伴走」することです。そして、何かひとつのソフトウェアを完成させます。

この「完成させる」経験は極めて重要です。

その後、半年から1年。やはり1日3時間を目安に、何らかの形でソフトウェア開発に集中できる時間を確保します。この時も、やはりメンターとなるソフトウェア開発のプロフェッショナルと共同で開発できる体制を維持できることが重要です。

これぐらいの時間が確保できれば、相当の開発力が付くはずなので、その後は一気に内製化が機能するようになります。

3.内製化すべき業務領域を絞り込めていない

私が考える内製に取り組むべきソフトウェアの領域は、次のような特徴・特色をもつ領域です。

  • 自社の強みを伸ばす、もしくは補強する業務領域で使うソフトウェアである。
  • すぐに正解(仕様・要件)が確定できないプロジェクトである。
  • 変化が激しく、仕様変更や機能の追加、修正に素早く対応する必要がある。
  • パッケージに合わせてしまうと、自社の強みが著しく低下してしまう業務領域である。
  • 小さく始めて、大きく育てるアプローチが可能なこと。

極端な話ですが、会計システムや給与計算システムを内製化でつくっても、自社の強みを伸ばすことは殆どできません。さらに、無数のパッケージシステムが存在する領域なので、わざわざ自社で内製する必要もありません。逆に、これらの条件を満たさないものは内製化するべきではありません。

しかし、例えば「生産管理システム」だといかがでしょうか。

この領域は、製造業の生命線となるシステムです。確かにパッケージ製品はたくさんありますが、なかなか自社にあうパッケージが見つからない領域でもあります。

さらには「事業規模」「製品の特徴」「受注生産と計画生産の混在比率」「特注品と規格品の混在比率」「内製化比率」「景気変動の受けやすさ」「海外取引の有無」「部品構成の複雑性と変化の頻度」など、変動パラメータが無数にあるのでパッケージ化が非常に困難です。

この問題をFileMakerプラットフォームを用いた内製プロジェクトで解決されたのが、長野県の上田市にある信州ハム様です。

私はご縁があって実際の本システムの動いている様子を見学させていただいたのですが、「内製でここまでのレベルのソフトウェアを作れるのか…」と、本当に驚きました。そしてアウトソーシングでは10年たっても開発できなかっただろうというレベルでした。(つまりプロジェクトは破綻していたということです)。

生産管理システムという領域の選択にも、同社の戦略性が伺えます。

先にも申し上げましたように、生産管理システムは、製造業の生命線でありながらパッケージ化が極めて難しく、アウトソーシングをしても多大な費用が発生してしまう領域です。さらに、生産現場で使用するシステムでかつ、複雑で変化の激しい領域のシステムなので、要件定義・仕様確定が極めて困難です。仮に確定させたとしても、その後の仕様変更が大量に発生するリスクを常に内包しています。

一方、生産管理システムがしっかりと機能すれば、「製造原価率の低減」「在庫回転率の改善」「ライン稼働率の改善」「残業時間の削減」など、複雑に絡み合っている要因が複合的に改善し、結果的に利益率の大幅な向上につながります。

このように生産管理システムは、製造業にとってまさに生命線となるシステム。つまり自社の強みを伸ばす・補強するシステムなので、内製化のターゲット領域として極めて相性が良いのです。

まとめ

このブログ記事では、戦略性の欠如に起因する内製化の失敗要因について考察してきました。

一方、成功事例としてご紹介した信州ハム様の事例では、この戦略性の素晴らしさが光ります。

信州ハム様は、プロジェクトの取り掛かりとして株式会社U-NEXUS様のトレーニングサービスである「FM-Camp」に参加され、開発者となるスタッフさんの教育に取り組まれました。

このようにしっかりと人材を育成した上で、生産管理システムという利益貢献度が高くて、かつ複雑で変化の激しい領域に、内製化の強みでもあるトライアンドエラーを繰り返しながら、小さく始めて大きく育てるアプローチを取られたことに卓越した戦略性を感じます。

弊社では内製化をご支援するサービスをご提供していますが、社内システムのすべての領域を内製で開発することを是とするものではありません。

パッケージシステムで賄えるものはパッケージシステムで賄うべきですし、自社業務とERPの間に乖離が少ない、もしくは業務ルールを変更することでERPに合わせられるならそうすべきです。

また、内製で開発するソフトウェアが自社の強みを補強するものではなく、特定の担当者、特定の部門の部分最適に終わるような場合もやはり内製化すべきではないと考えています。

ソフトウェアの内製化は、オオカミ男を一撃で倒せる銀の弾丸ではありません。

社内に一定レベルの開発者が育つまでは、それなりの時間とコストが掛かりますし、一度できた開発体制を維持していくにもやはり時間とコストが必要です。

そして、それだけの投資をしても得られるリターンが大きいと考えれば、しっかりとした戦略と共に内製化を進めたほうが良いですし、リターンよりもロスが大きいと考えれば、内製化には取り組むべきではありません。

大切なのは、自社の業界内におけるポジショニング、これから会社が向かおうとしている方向性、社内リソースの状況、そして何よりビジネスそのもののデジタル化(デジタルトランスフォーメーション)に対して、自社がどのように対応しようとしているか等を総合的に判断し、「やる・やらない」を決めることが肝要なのです。

内製化をご検討されている企業は、今一度自社のビジネスの強みや今後の方向性をしっかりと吟味した上で、本当にソフトウェアの内製化が自社の戦略としてマッチするのか否かを考察してみましょう。

以下、記事内でご紹介させていただいた各種事例・サービスへのリンクです。

弊社でサポートさせていたいた内製化プロジェクトの成功事例発表(FileMakerカンファレンス2016)

信州ハム様の生産管理システム内製化成功事例


株式会社U-NEXUS様のトレーニング事業「fm-camp」

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