コラム・エッセイ

自分の住みたい地方のIT業界をより良くするために必要な構造変革とは?

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長野には業務のわかるSEがいない!?

「今長野市内には、業務がわかるSEが全然いないんですよ。僕らの世代だと、大きな新規開発のプロジェクトを上流から経験した人間はほとんどいないし、そういう経験をしてきたバリバリの人たちはもうみんな偉くなっちゃって、現場に出ないんですよね…。だから結果的に、上流からの仕事が請けれないし、どうしても下請けの仕事になっちゃうんですよ…」

これは先日、長野市内でお取引のある同業界のエンジニアさんから聞いた話です。

この会話の発端は、私からの質問でした。

「なんで長野市内にある企業は、長野の開発会社に仕事を出さないで、わざわざ単価の高い東京の会社に仕事を出すんですか?しかも、東京で上流やって、設計とかプログラミングだけ長野でやっているってものすごくいびつな構造のような気がします。そもそも仕事出す側は高くついちゃいますし、地元のエンジニアもこれだと全然育たないですよね?」

この疑問を持ったのは、昨年末に長野で定期的に開催されているSEの勉強会で、地元の技術者さんと長野のIT業界についてお話したのがきっかけです。

私は長野市に移住してもうすぐ8年になりますが、移住して数年はメインのクライアントさんが全て東京だったこともあり、地元のエンジニアさんとお話する機会は全くありませんでした。

また、私のように「株式法人は持ってますが、実態はフリーランスです」と最初から宣言し、かつ技術のバックグラウンドもFileMakerプラットフォームというニッチなテクノロジーなので、当然普通の開発会社からは仕事のオファーもなく、技術的な勉強会などにおいても、なかなか接点を持つことができませんでした。

それが昨年から私自身、いろんなことを経験した結果、東京の仕事だけではなく、長野の企業に重心をおいて仕事をしたいと思うようになりました。

そして運良く、弊社のWEBサイトに併設しているこのブログ記事でFileMakerの開発テクニックを勉強されているという、とある長野県内の企業様から「FileMakerの開発を手伝って欲しい」とのオファーがあり、そこから少しづつ長野での仕事が増えていきました。

地元の企業に頼みたいけど頼めないという構造的不幸

お話をお伺いすると、こちらのお客様は、過去何度も、地元のソフトウェア開発会社に仕事を頼もうと、いろんな会社とコンタクトを取られたといいます。

しかし残念ながら、どの会社とも取引にいたることはありませんでした。

理由は様々ありますが、煎じて詰めると「技術者と会話が成立しない」ということでした。

求めているソリューション…ここではソリューションを具体的な「解決策」としますね。

最近は、ソフトウェアのことを何でも「ソリューション」と呼ぶ風潮がありますが、ソリューションとは「解決策」のことで、お客様の問題を具体的に解決できないソフトウェアはソリューションでもなんでもありませんから…

このソリューションを提示することができない。
最悪、提示できなかったとしても、お客様との対話を通じて共に考える…ということすらできないというのです。

そして冒頭の会話に戻ります。

「長野市内には業務がわかるエンジニアがいない…」

もちろん、その数はゼロではないと思いますし、中には第一線でバリバリにやっている方もいらっしゃると思います。

もしかしたら、東京に召し上げられて、お客様先に常駐されているのかもしれません。

しかし現実問題として、地元の企業が、地元のソフトウェア開発会社に仕事を頼みたくても頼めない状況だということがよく解りました。

「あそこに頼んでもろくなもん作ってこない」「あそこは話が通じない」

結果、地元のソフトウェア開発会社には直接の仕事がこなくなり、事業会社さんは「大手の◯◯だったら大丈夫だろう」ということで、東京本社の大手企業に仕事を投げて、必要以上のお金をごっそりと持っていかれるという構造になっているようです。

このままだと、地元の企業は情報システム投資に必要以上のお金がかかり、そして地元のエンジニアは育たない…

…と長野のIT業界にとっては全くいいことがありません。

 

地方に暮らすエンジニアの抱える課題と希望とは?

地元の事業会社と長野のエンジニア双方にとってWin-Winの関係が築けるような方法はないか…と漠然と思っていたところ、あるブログ記事が目に止まりました。

それは「納品のない受託開発」というキャッチコピーで、日本におけるソフトウェアの受託開発に一石を投じられている株式会社ソニックガーデン・倉貫社長のブログです。

目に止まったブログ記事のタイトルは、「地方に暮らすエンジニアの抱える課題と希望」。

この記事の中に鋭い指摘がありました。引用させていただきます。

多重請負をやめるためには発注者が変わるべきという話がありますが、私はそうではないのではないか、と思っています。この現状を作り出しているのは発注者ではなく、下請けや派遣でのしょうもない仕事を請ける会社があることです。そして、そうした会社であっても甘んじて働いている人たちがいるからなんです。
(中略)
そうしたところから優秀な人はもっと独立した方が、自分のためでもあり、世のためでもあるのです。

これは本当におっしゃるとおりだと思いました。

多重下請け構造は、なにも発注側が意図してつくったわけではなく、受託側がある意味自分たちの「保身」のために構築した必要悪のようなものです。もちろん、保身が悪いとも思っていないですし、今すぐそれに変わる何かを提示しろと言われてもなかなか難しいと思います。

しかし、「死なない程度にメシが食える」という状況に甘んじて、せっかく持っているその技術をより社会のために使わないのは本当にもったいないことだと思います。

弊社は昨年、ある大きなプロジェクトを受注できるチャンスがありました。

しかし、その仕事をいただくには「多重下請け構造」に入ることが条件になっていました。

仕事の内容としては非常にチャレンジしがいのあるもので、そして収益性の面からも非常に魅力的な仕事でした。

しかし、私の仕事のポリシーとして「価値を提供しない会社が間にはいる下請け仕事はやらない」というものがあります。

たとえ吹けば飛ぶようなひとり親方のフリーランスSEでも、このポリシーを捻じ曲げてまで仕事をすることはできません。

結果、収益の面では大きな痛手をうけました。

なにせ見込んでた売上の約7割が全部ぶっとんだのですから….

想像してみてください。

自分の給料が7割減になってしまった時のこと…

もうぞっとするどころの話ではないですよね。

もちろんこれは、会社経営としてはNGの意思決定です。

褒められたものではありません。

そして結果として多くの人にご迷惑をかけたことも、不愉快な思いをさせたことも事実です。

しかし、誰かが具体的な行動を起こさないかぎり、この「多重下請け構造」という必要悪は絶対に無くなりません。弊社はフリーランスで仕事しているSEがひとりでやっている会社なので、私一人が行動を起こしたところで業界構造が変わるとも思いません。

でも、だからといって行動を起こさなくても良い理由にはならないと思います。

 

自立するためにビジネスとマーケティングを学ぶ

「多重下請け構造」から脱却して、自立したビジネスを営むためにはどうしても「ビジネス」と「マーケティング」に関する知識が不可欠です。

いくらソフトウェアエンジニアリング分野の技術力があっても、マーケティング…

つまり目の前に見込客を連れてくる、もしくは見込客の潜在的ニーズを掘り起こす技術が無ければ、結局は大手が取ってきた、もしくは集客力のある人が取ってきた仕事の下請けしかできないのです。

また、ビジネス的な視点としてもうひとつ倉貫さんのブログから引用します。

「地元の企業を対象に受託開発をするのは戦略として不適当です。地方で地方の企業相手に受託の仕事をするというだけでは、地方の中でお金が回るだけで、それほど活性化に繋がらないからです。」

これは確かにおっしゃるとおりで、私も反省すべき点だと思いました。

しかし、より広域に「ビジネス」というレベルで俯瞰すると、少し違った視点も見えてくるのかなとも思います。

例えば私のクライアントに、年商約30億円の製造業の企業様がいらっしゃいます。

こちらのお客様の商圏は、日本の主要な政令指定都市、そしてアジアを中心に海外にも幾つかの製造拠点、そして営業拠点があります。

こういった潜在能力のある企業様に対して、より広い商圏、そして世界からキャッシュを呼び込めるように、私達が情報システムの側面からサポートするという受託開発…つまりビジネスもあると思います。

事実、私がサポートしているこちらの企業様では、物流業務がIT化されたおかげで、役員クラスの方から「これで世界中から注文を請けられるようになる」と話されているそうです。

物流業務がIT化されるまでは、10年以上前にMicrosoftAccessで開発されたツールレベルのシステム、そして最終的には紙と赤ペンを駆使してなんとか物流業務を回されていました。

当然ですがこのような状況なので、業務品質は非常に低い状況でした。

配送ミスは日常的に発生しており、コンピュータに入っている理論在庫は非常に信頼性の低いものでした。残業は定常化しており、物流センターのスタッフさまはいつも不満を持っていました。

しかし、ほんの少額のIT投資で、受注・物流・在庫データが一気通貫になったことで、業務は一変しました。

配送ミスは無くなり、業務全体の流れが可視化されたおかげで、スタッフ同士が協力し合いながら仕事ができる環境になりました。

このように、地方の中小企業であっても「投資するツボ」をはずさなければ、ほんの少額のIT投資でも「世界」が見えてくることさえあるのです。

このようなITを駆使したビジネス支援ができるのは、私達IT技術者しかいません。

地方のIT技術者は、もっと地元の企業に目を向け、そしてその企業がより成長していくために、自分たちに何ができるかを考えるだけでも、ビジネスセンスが磨かれると思います。

地元の企業が、日本全国で、そして世界で戦っていくために、情報システムを進化させるのは、地元在住のIT技術者である私達の役目だと思います。

その結果として、地元の企業が成長し、そして雇用が促進され、地域に潤いをもたらす…という青写真を描き、そしてそれを具体的に形にすることだってIT技術者にはできるのです。

 

自分の住む地方のIT業界をよりよくするために

もうひとつ、倉貫さんのブログから引用します。

地方を活性化したい志があるならば、地方だけに目を向けず、大手の下請けに甘んじるのではない商売をしましょう。

長野のIT技術者さんとお話していると、本当に長野を愛していて、長野で仕事がしたい、長野をもっと良くしていきたいという気持ちを持っておられる方がたくさんいらっしゃいます。

長野で暮らしたいから、東京での仕事をやめて地元の会社にUターンされた方もたくさんいらっしゃるようです。

それぐらい長野は魅力的な場所です。私も今のところ、長野以外の場所に住みたいとは思えません。

でも、そこで働くIT技術者が、下請けの仕事をいやいややっているようでは、長野のIT業界の未来は明るくありません。

何より、次世代の子どもたちに申し訳ないです。

倉貫さんは、ブログの中で、「プログラマを憧れの職業にする」ことがミッションだと書かれています。

私自身はミッション…と呼べるかどうかはわかりませんが、少なくとも自分の子どもには「プログラマという仕事は楽しくてやりがいがある仕事だよ」と話しています。

そして、プログラマの手から生み出されたソフトウェアが、何人・何十人・何百人・何千人という人につかってもらい、そして喜んでもらえれば、それだけ世の中に幸せを届けることができると話しています。

今、私には10歳の娘がいます。

この子は10歳ながらに、私がつくった企業向けアプリのテストを手伝ってくれています。もちろん遊び感覚ですが、子どもは楽しくやっていますし、操作性に関する鋭い改善案も提案してくれます(笑)

名称未設定

ピッキングリストのスキャニング機能をテストしてます

 

そしてこの子がテストに協力してくれたソフトウェアが、実際に企業様で稼働し、そしてお役に立っています。自分がテストを手伝ったシステムの利用風景を写真や動画で見せたのですが、ものすごく喜んでいました。

そして「私もプログラマになりたい」と、前にもまして私の仕事をよく手伝ってくれています。

今のところ、うちの子にとってプログラマはあこがれの仕事…のひとつみたいです。

そもそも長野に移住した理由は、娘を安心して育てられる環境で子育てをしながら、自分自身も、母親に子育てをアウトソーシングするのではなく、父親として子育てにコミットすることが目的でしたので、今はそれが非常にうまく行っているようです。

今、Iターン・Uターンが非常に注目されており、長野も子育て移住の人気地方として知られています。

中には私と同じような動機で長野に移住された業界の方もいらっしゃると思います。

もしこのブログ記事に共感いただけたら、ぜひご連絡ください。

次世代の子どもたちのために、長野からIT業界を変えていきましょう。

そして最後に…

もしかしたらこのコラムを読んで、気分を害された方がいたら申し訳ございません。あくまで私が見えている範囲だけで書きましたので、実態とは異なる部分もあるかと思います。

中には「よそからきた人間にとやかく言われる筋合いはない!」と思われた方もいらっしゃると思います。

しかし、私自身は長野の企業と、長野に住むIT技術者が相互協力しながら、共に成長できるような業界的構造変革が必要だと感じています。

もし、そのような「長野の企業と、長野に住むIT技術者が相互協力しながら、お互いが成長している」っという具体例がありましたら、ぜひ教えて下さい。

こちらのブログでも、そのような成功事例をたくさんご紹介していきたいと思います。

※こちらの記事もおすすめです。

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